カイゼン、そしてプレジデント的な何か

はてブを読んでいるとついつい店の経営になにかプラスになりそうなトピックに目が行ってしまう。自分では正しいと思っていることって、案外その根拠や土台はぜい弱で、偏った見方に満ちたものだったり基本的な部分で誤った理解をしているケースがあるからだ。でもなぜか、日本のコンサルや経済誌関連の読み物で記憶に残るようなものは少ない。プレジデント(雑誌)ライクとでも言うのか、意見が論理的であれば誰もが成功するかのような内容は読んでいて脳内にアラートが鳴ってしまう。

最近だと気になったのはこの記事。http://www.ex-ma.com/blog/archives/613 いかにもプレジデントライクな文章で、読んだ後に『そっか~、ウチに足りないのはこれだ!』とか社長が突然言い出して、思いつきで似て非なるものを始めて従業員が困惑する光景が目に浮かんでしまう。

こうした文章の何に違和感を感じるか。それは『自分は正しい』という前提で話が進んでいることだ。今回の話で言えば、まず例として挙げられているホテルやレストランは『ホスピタリティがあり』、『美味しい』ということが前提になっている。でも果たしてそのあまりにもハードルの高い前提をクリアしている店がどれだけあるのか、また、その前提があまりにも高いものだと認識して読んでいる人がどれだけいるのだろうか?

商売をしていて大事なのは、お客様と自分の間に誤解から生まれる溝を作らないことだと思う。流行らないレストランのシェフで自分の料理が美味くないと思っている人はいないし、郊外にショッピングモールが無くても結局シャッター通りになったと思う商店街の店主は居ない。皆、自分は正しいと思っている。だからこそこのような前提の経営話は多くの人に共感を得るのだろう。

10年前、まだ従業員だった僕が勤務している店の近くに、僕が売り場責任者をしていたアイテムの大型チェーン店が出来た。売上はがた落ちした。そして僕はその店よりさらに安い価格アイテムを揃えて対抗し、成果を上げることが出来なかった。価格も安く専門知識なら絶対に負けない自分が結果を残せないのはお客様のせいだ、と当時の僕は思っていた。そしてそのままの思考でいたら売場は閉鎖されていただろう。

そこから僕が取り組んだのは、『果たして自分は正しいか?』を検証することだった。販売をする上で必要な要素(プロセス)を書いて、自分が知りうる全国の同業者でベストだと感じる人・店を5とし、自分と売場に点数を付けてみた。泣きたくなるほどに自分は『正しく』なかった。そして、その点数を上げるために自分が何をすべきを考え、お客様が当店を知り来店し購入し納品するまでの全てのプロセスを理想化した小説を書いてみた。主人公のお客様が見た売場や商品アイテムも出来るだけ詳しく書いた。1年後に結果が出始め、2年後にはチェーン店が当店を意識するようになり、3年後には僕がチェーン店を意識することはなくなり、僕が前職を去る時にはチェーン店は売上のテコ入れのために大幅リニューアルをすることになった。

3カ月ほど前に業界紙からアンケート用紙が届いた。その中に『消費税増税後の対策は取られていますか?』という質問項目があり、『有り』の回答の中には色々な販促策が描かれていて〇で囲むようになっていた。僕はそこに書かれているプレジデントライクな対策に違和感を覚えて何も〇を付けなかった。僕がやったのはスタッフミーティングだ。増税前の駆け込み需要でパンクしたこの数か月間でしか見えなかったことがたくさんあった。スムーズだと思っていたルーティンは実はスムーズではなかったし、より良いものを提供するためにと取っていたコミュニケーション方法は十分ではなかった。事務所の白板に業務フローを貼り、スタッフにこの数カ月で感じた問題点を付箋に書いて貼ってもらうと他にもたくさんの要改善点が出てきた。ミーティングではそれらの全ての解決策を考え、今すでに動き始めている。自分は正しくない、少なくとも正しくないかもしれない、そう考えていくことが真の意味での販促だと僕は思っている。