オボカタさんとツバサくん

STAP細胞が世の中を騒がしている時、僕は思った。『この人たち、何でこんなに怒れるのだろう?』と。自分と利害関係もない、ましてやその内容や背景を理解することすら難しいこの問題にあれだけ真剣に自分の意見を主張できることが不思議でならなかった。最初の報道がセンセーショナルだったために、多くの人があの出来事の『当事者』になったこともあるだろう。喜び、称賛した自分を裏切ったという思いもあるのかもしれない。それにしてもと僕は思う。『本当は怒ってなんかないでしょ?』

で、ツバサ君である。僕は怒っている。もちろん当人に伝えることはできないし、この気持ちを具体的な行動にするつもりもない。でも、とても不愉快で憤りを感じた。彼の文章はクレーム処理をしたものなら分かる作り方になっている。全面的に非を認めつつ、具体的な例については自分に非の無い内容にする。これによって相手は、『本来ならそこまで謝罪ることではないのに謝罪する彼は誠意のある人だ』という印象を持つ。例えば仕事上、自分のミスでクライアントに迷惑を掛ける事態が発生したとする。原因はAであるにもかかわらず相手には自分とはあまり関係のないBが原因と話し、尚且つBを見抜けなかった自分の責任であると話すのだ。今回の場合、前者は最初の謝罪文で、後者は税金だ。でも、それは単なる言い逃れに過ぎない。

経営者であれば予定納税がどの程度かを税理士・会計士に相談し予算組みをする。あれだけの売上規模であれば当たり前のこと。それを考えずに、単なる贅沢や浪費をビジネスに必要なセルフプロデュース料として自分に都合よくお金を使い、『資金ショートしました』なんて言い訳にもならない。もし金持ちを演じる事がビジネス上必要なのであれば、車だってベントレー一台でも十分だ。日々の贅沢な生活の演出も、俳優やタレントがそうであるように、そのような印象を与えるだけで良かったはずだ。結局、彼は贅沢に魅了されただけ。まるで高額年棒を使い果たして引退後に苦労する野球選手と同じ。とてもじゃないが経営者とは言えない。しかもあれだけの浪費生活をネットにアップしておきながら、国税が12分割に応じてくれるという期待を持つ不思議。地方税務署の税務調査ですら、対象となる会社のブログや社長のフェイスブック位チェックしてくるよ。

 

僕がこれだけ彼の件にムキになるのは、同じ経営者として今回のような『事件』は、社会に悪影響を残すことが残念でならないからだ。多くの真面目なIT関連会社やベンチャーが築き上げてきた社会に対する誠実さに傷を付け、多くのアントレブレナーがこれから立ち向かうであろう困難を、より難しいものとする行為に他ならない。今の社会はマイノリティを許さない。一部のクレーマーが騒ぎを起こせば、店はマジョリティに新たなストレスを与えることになっても対策を施す。一部の非常識なアルバイトがツイッターで悪行をさらけだせば、それ以外の全員が仕事に関するツイートを禁止されることもある。『彼はバカだなあ。他にそんなことするヤツいないのに』では済まされないのだ。一部の不真面目な経営者が起こした破産騒動は、決して『ザマア』で済むような、ましてや彼が謝罪して終わるような問題では決してないのだ。