黒い無限ループ

ブラック企業』の代名詞となったワタミが、上場後初の49億円の赤字となって話題になっている。すき家を経営するゼンショーは店舗運営を一人で行う通称『ワンオペ』が従業員の不評を買い、多くの店舗が一時閉鎖されたままだ。これらのニュースはネット上では好意的に受け止められているが、これに良く似た類のニュースでスルーされているものが同時期に二つあった。一つは自動車のメカニックが不足していて業界と国が協調して人員確保に当たるというニュース、もう一つは東京五輪を控えているにもかかわらず、建設業界が深刻な人員不足に陥っているという話題だ。

これらのニュースはワタミゼンショーとは線引きされて話題になっているが、根底にあるものは良く似ている。値下げが行われても、トータルで収益が上がっている内はなんとかなった。しかしリーマンショックを境にそのレベルすら維持できない会社が増え、その多くは倒産した。職人も今が辞め時とばかりに職を離れた。通常ならそこで『神の見えざる手』が働いて価格を上げる事が出来るのだが、資金繰りに困る一部の会社や職人が低価格取引の受け手となっている関係でそうもならない。その結果、生き残った「優秀な」会社もまた、以前と同様に苦しい経営状況を強いられ、優秀な人材が集まらずに業界が地盤沈下するという無限ループ。業種や顧客ターゲット、経営形態(BtoBかBtoCか)の違いはあるものの、低価格低利益の仕事を現場マネージメントに取り込むことが出来ずに破綻する構図は同じだ。

建設業界で言えば、アベノミクス効果からか緩やかな景気回復が感じられ、土地や金利も安く、でも先行きに不透明感が残るというこの複雑な時代に、企業の投資や個人の住宅購入というのマクロの額は(消費税増税の駆け込み需要を差し引いても)増えつつある状況にあった。しかしミクロな局面では予算に余裕が無い現場が多く、今後もfeeが増えるような期待感は薄い。簡単に言えば、赤字ではないものの忙殺されそうな毎日に見合う経営状況ではない、ということだ。

でも想像してみると、果たしてこのような状況にない業界があるのだろうか?福祉やIT、物流、流通、どれも同じようなものではないだろうか。ワタミゼンショーには『ブラック』『ワンオペ』というキーワードが存在し、それらが世間に広く知らしめる役割を担っただけで、何も特別な存在ではないのではないだろうか。だからこそ、世の中の人々はそれらに自分の所属する会社を投影してバッシングしているのではないだろうか。

こうした社会に自分が何が出来るのかと言えば、おそらく何もない。ただ一つ、経営者として自分が理解していなくてはいけないことは、こうした組織・業界が今、断末魔の叫びをあげているということだ。それは決して会社と従業員がwin-winの関係を築くとか、モラルハザードが云々とか、コンプライアンスがどうとかという問題ではなく、もっとシンプルな人としての問題なのだと思う。そして、僕ら小規模事業者にとって生命線とも言える『人』を確保・維持するためには、こここそが最も重要視しないといけない点なのだと思う。